考え事と生活の記録

とりとめのない日々の記録です。

奈良に引越して2年。

 

さっき奈良市内の個人経営のカフェで、本棚に並んでいた、大阪の小説家の津村記久子さんが大阪について大阪弁のカジュアルなノリで綴ったミシマ社の薄い本を読んで、いま自分が住んでいる奈良について自分も書きたくなった。2年前に引っ越してから奈良のことを書こうと何度も思っていたのに、一度も書けていなかったんだった。

これからローカルな地名が説明なしでたくさん出てくるので他府県の人はちんぷんかんぷんだと思う。先に断っておく。

 

僕も津村さんと同じく大阪育ちで、大学で京都に出たんだけど、それまで高槻、八尾、大阪(市)、羽曳野と、いろいろ引っ越してたとは言え3歳で大阪に引っ越してきてから浪人まで15年間くらい大阪府下にいたから、自分のアイデンティティの一部は大阪にある気がしている。(どちらかといえばシャイだし、話すよりも聞き手に回ることの方が多いので他府県の人に大阪っぽいと言われたことは全然ない。)

 

大学を卒業して最初の就職先が奈良だったから、ちょうど2年ほど前に京都から奈良に引っ越した。

子どもの頃から親父に連れられて奈良のスーパー銭湯や市民プールに来たりしていたし、近鉄電車の「石切、生駒、奈良方面へは・・・」のアナウンスを聞いて石切も奈良だと思っていたくらいだから(ごめんなさい)、大阪育ちで、奈良に隣接する八尾市に一番長く住んでいた僕にとって奈良はわりと身近な存在だった。

小学校の遠足で行った飛鳥は特に好きで、大学の頃にも2回ほど遊びにいったことがある。近鉄の定期券を持っていた高校時代、定期圏外の橿原神宮前まで行ったのも懐かしい思い出だ。

 

僕は中学生のときに大阪の環状線の内側にある上本町という都市部に住んでいて、コンクリートジャングルのようなその地域が僕は苦手だった。僕の家族は上本町以外はだいたい川が流れている地域に住むことが多かったのだけど、上本町は川もなく、自然を感じられる場所が少なく、マンションやオフィスビルが多く人口密度が高いのが僕にはしんどかった。

 

自分には都会より郊外とか田舎の方が合ってるんだろうなあというのは、その頃から気づいていたように思う。

 

大学でひとり暮らしをしていたのは京都市左京区の高野という地域だった。左京区は学生の街とも呼ばれ、京阪電車の北のターミナルのある出町柳百万遍元田中、北白川、一乗寺などには学生向けの店がひしめいている。高野はそういった学生街の北部にある。出町柳から高野川を北に20~30分ほど歩くと出る最初の大通りの北大路通りにかかる橋が高野橋で、その東側の地域が高野だ。ショッピングセンターのカナート洛北(当時)やスーパーイズミヤ大垣書店ビッグカメラがあり、ここを左京区の中心と呼ぶ人もいる。一乗寺のラーメン街や下鴨神社へのアクセスも抜群で、高野橋からは比叡山や、五山送り火の「妙法」の法の文字がよく見える。「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」のロケ地になった宝ヶ池や、教会が多くクリスマスシーズンはイルミネーションで華やかになる北山通り、その通りの南側にある京都府立植物園へも自転車があればすぐだ。

 

高野は、駅まで少し遠いのを除けばとても便利な場所で、川も近くて良かったのだけど、スーパーやショッピングセンターが近い分、北大路通り周辺は人通りが多く、ガヤガヤしてる感じが少し苦手だった。北部の山間地の大原などに観光に行った帰りには、人の多い場所に戻ってきてしまったと感じることがあった。

 

「人口密度」というのが(HSPを自称する)自分が快適な土地を探すためのひとつの鍵なのかもしれないと思う。友人が住んでいる青森の八戸を訪ねたとき、広大な土地に大きな通りや店、テニスコートなどが贅沢に使われていて、空の広さにも驚くと同時にのびのびした気分になった。車がなければ不便そうだけれど、お洒落なカフェやブックセンターなどもあり、冬の寒さや積雪は大変そうだが住んでみたい街だと思った。

 

八戸市の人口密度は731人/km2。

大阪市は12,167人/km2京都市は1,771人/km2だ。

大阪市おそろしい。

ちなみに東京23区は 15,386人/km²だった。

 

これから話す奈良市の人口密度は1,278人/km2

八戸と京都市のちょうど間くらいだ。

まあ、市の面積に含まれる山地の割合によって人口密度なんて大きく変化するから、

実際市街地で感じる人の多さの感覚とどこまで一致するかはわからないけど、奈良が八戸市京都市の間くらいというのは僕の個人的な実感と一致する。

 

率直に言って、奈良は僕にとって、大阪や京都よりも住みやすい場所だ。

 

奈良市を南北に走る近鉄電車の交差点にあたる大和西大寺と、近鉄奈良線の終着駅の奈良駅の間、奈良市役所のあるあたりが僕の生活圏内だ。県立図書情報館という、池を埋め立てて作られた大きな図書館が近くにある。(僕はこの図書館に通いたくて、ここに近い場所を住所地に選んだ。)

 

平城旧跡の南部、奈良市の中心部を東西に走る大宮通りや三条通り、あるいは京都から和歌山まで走る国道24号線沿いには飲食店やスーパー、ホームセンター、ショッピングセンター、レンタルDVDショップ、スーパー銭湯などが並び、生活には不自由ない。

 

近鉄奈良駅方面へ行けば若草山春日大社のある奈良公園、逆に西大寺方面に走れば平城宮跡もあって、人ごみを逃れて緑や夕焼けを楽しむことが簡単にできる。

奈良市佐保川や富雄川が南北に流れ、大和西大寺から一駅南の尼ヶ辻駅付近や、一駅東の新大宮駅の北部には古墳もある。奈良なのでもちろん寺もたくさんある。薬師寺唐招提寺などのある西ノ京駅大和西大寺駅から近い。

 

関西の他府県へのアクセスも抜群に良い。近鉄で京都や大阪難波阪神線直通のため神戸三宮にも一本でいけるし、JRを使えば三重や和歌山へも簡単に行ける。滋賀にも京都経由で一時間半もあれば行くことができる。関空へもJR奈良駅からバスで1時間半ほど。ちなみに名古屋へもJR奈良駅から乗り継ぎがうまくいけば3時間ほどで着く。

 

便利さや過ごしやすさを挙げればきりがないけれど、奈良の一番の魅力は、魅力を主張しないところなのかなと思う。

京都と比較して奈良は観光ビジネスが下手だと言われることが多い。たしかに京都に住んでいた来た人間からすれば、奈良は歴史ある場所なのに観光客の数は少ないし、近鉄奈良駅周辺でも夜早く閉まる店が多いし、おいしいものといってぱっと思いつくのは天理系ラーメンや奈良漬や柿の葉寿司くらいで(ほんとはもっといろいろあるけど)インパクトが弱い。

でもそういった主張の弱さとか、観光客を集めることに躍起になりすぎない(と僕は感じている)ところこそが奈良の魅力なんだろう。奈良の人は優しいというのが奈良に引っ越す前からの僕の印象だった。路上とかで喧嘩したりののしりあったりしているのをほとんど見たことがないし(一度だけ路上喫煙者に怒鳴りつける女性を見たことがある)、治安もとてもいい気がする。話し方も大阪とかと比べてやわらかい。

 

「優しくて住みやすい」以外に奈良らしさを感じることが僕はあまりなくて、でもそういう特徴のなさこそが、他の地域から来た人にとっては溶け込みやすいということなのかもしれない。

 

奈良はこのままでいいと思う。これ以上開発されなくてもいいし、これ以上観光客を呼び込まなくてもいい。住みやすい場所だと思うけれど、これ以上人口が増えなくてもいい。10年後も、今のままの奈良でいてほしい。

 

とは言っても、国内をいろいろ旅行していると海や湖のある県への憧れはどうしてもあって、次は湖のある滋賀に住んでみたいなあと漠然とした希望はある。

 

それでも、主張が弱く人も多すぎずそれでいて便利な奈良県は居心地がよくて、それは僕にとってたぶん空気のような存在で、なんだかんだ長いこと住み続けるんじゃないだろうかという気がしている。

 

僕は米を食べるように奈良に住み続けるのかもしれない。

新鮮な魚を毎日食べる必要はないのだ。