書きながら考えたこと。

奈良で暮らす20代の男の、とりとめのない日々の記録です。

2日目

5月31日

 

朝。予定していたより早く、7時ごろに目覚める。

 荷物をまとめて部屋を出て、昨夜ホステルの近くの格安スーパー、Nettoで買っておいたアボカドとハムとクロワッサンを1階の休憩スペースで食べる。デンマークは物価が高く、格安スーパーと言えど日本と比較すれば高い食品がほとんどなんだけど、なぜかこのスーパーのアボカドは小ぶりではあるもののネットに5つ入って20DKK、日本円で約350円だから日本で買うよりも安い。

 

アボカドをハムと一緒に味わったあと、ホステル内のコインランドリーを探す。

 

今回僕は、普段使いのリュックひとつで旅に出た。「フィンランドの森を歩く」という目的があるのに荷物を増やしたくはなかったし、普段使いのリュックで海外に行くことで自分のなかでの海外旅行のハードルを下げたいという思いもあった。

 

だから衣類は3日分しか持ってきていない。一週間の旅の途中で、洗濯をする必要がある。

 

今後も泊まる予定のこのホステルの地下にランドリールームを見つけ、安心してチェックアウトする。

 

今回の目的地のひとつ、デンマーク王立図書館はホステルからほど近い。建物まですぐに着いたが、まだ開館まで時間があった。小雨が降っているが気にせず、朝のコペンハーゲンを散歩することにする。

 

ホステルのwifiで事前に周辺の地図を読み込んでおいたgooglemapを確認する。

2年前の刺激的な3ヶ月の留学期間のなかで僕が最も強い興奮を覚えたのは、日本を出る前から気になっていた建物を訪れたときだった。そのコペンハーゲン大学学生寮、The Tietgen Residence Hallまで徒歩圏内のようだ。時間があるし、また行ってみよう。

コペンハーゲン中央駅から少し離れたその建物へは、たしかメトロを利用してしか行ったことがなかった。

点と点の記憶でしかなかった空間が、歩くことで繋がっていく。道中、5日後の国政選挙に出馬した候補者のたちの顔写真のポスターが大量に貼られているのを目にする。

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 景色が見覚えのあるものになってからは、地図を見ず、記憶を頼りに目的地まで歩いてみることにする。

しばらく歩いて角を曲がると予想外の方向に現れた。

それぞれの部屋が凹凸を作っているユニークなドーナツ型の巨大な立体。2年前ここへ来たときは偶然設立10周年祭が開催されていて、ここに住むコペンハーゲン大学の学生たちの奏でる音楽やちょっとしたイベントを見たりしながら、3時間くらい中庭でビール片手にぼーっとしていたんだった。

 

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刺激的な形なのに木の色が落ち着くと思って眺めていたけれど、落ち着くのはまるで自然の木々のように、外壁に様々なブラウンが使われているからだと気づく。何度見ても好きな建物だ。

 

再会できたことに満足し、来た方向に戻る。

 

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デンマーク王立図書館、ブラックダイヤモンドに入る。着いたころには雨も降り止んでいた。開館して間もないからか人は少ない。

エントランスを入った目の前にインフォメーションとデンマーク関係の書籍やお土産売り場のコーナーがあり、右手奥にはおしゃれなカフェもある。2018年の報道写真展が地下でやっていて、10時にオープンするらしい。

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時間が来たら写真展に行くことに決めて、それまでの時間館内を見て回ることにする。

建物が横半分に分かれ、真ん中が吹き抜けになっている。大きな窓からはニューハウンの入り口につながる海が見える。エスカレーターが動いていないのは節約のためなんだろうか。

 

17世紀以降のデンマークの書物をすべて保管しているというこの建物は、古書のあるコーナーとそれ以外で建物の内観ががらっと変わっていておもしろい。現代的な建物から奥へ進むと、過去の図書館にタイムスリップしたような感覚になる。

全体的に英語の書物が少なくて今の自分には読めないものばかりだったのが残念だった。

 

2階のパソコンで調べ物をしていると、おそらくイスラム系の女性が「プリンターを使いたいけれどうまくいかない」と、年配の男性職員に英語で問いかけている。ゆっくり丁寧に、わかりやすい英語で答えるおじいちゃん職員の親切さが見ていて嬉しい。

 

チケットを買って報道写真展を見る。難民の子どもの施設の、無機質な環境を取り上げた写真に目が留まる。デンマークの難民に対する政策は今後も厳しくなっていくのだろうか。

 

難民の受け入れをほとんどしていない国に住む僕が言えることではないけれど、留学中に学校でエリトリアやシリア出身の難民の人たちとも関わった身として、そしてデンマークがこれまでたくさんの移民や難民を受け入れてきて、今でも教会などで移民や難民へのたくさんの支援活動を行う人たちがいることを知っているのもあって、近年のデンマーク政府の難民への厳しい政策には複雑な思いを持つ。

 

写真展を見終え、1階のテーブルで次の目的地を考えてから図書館を出る。 

カフェに行きたい気分だった。スマホで調べて出てきた、別の図書館の隣にあるというDemocratic coffeeというところが気になったが、駅とは違う方向だったのでやめておく。13時半の駅発のバスで、ユラン半島のVejenというところに向かうつもりだった。

 

駅に行く途中に、Danmark Architecuture Centerがあった。まだ時間に余裕があったので入ってみる。北欧建築に興味があるから行こうと思っていたんだけど、さっきまで図書館に没頭しすぎてそのことを忘れていた。

 

地下へ続く階段を下りる。入口が地下にある変わった構造だ。特に入場料はないようで、そのまま館内の階段を上っていくと、早速刺激的な展示に出会った。

 

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oprør!

デンマーク語で反乱! という意味だ。

「いつの時代も、若者は社会規範と戦っている。平等やグリーンエネルギー、多様性や新しい生き方といったテーマでの闘争を導いている」と書かれて、1965年代以降の、反戦運動や差別への抵抗、アラブの春や銃規制運動、最近では環境問題にもっと真剣に取り組むべきだと訴えるFriday For Futureの運動も、時代順に取り上げている。

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若者の力が社会を変えてきたことをこんな風にまとめた表現を僕はこれまで見たことがなく、圧倒された。

 

クリスチャニアに代表されるように、社会規範に抗う若者の力というのが、この国ではとても強いように感じる。抗うだけではない。議会にもたくさんの若者がいるから、若者が実際に社会を作っている感覚が当たり前にある。

日本でも若手企業家とか、若者の活躍はすごいけれど、年齢による上下関係というものが存在し続ける限り、この国ほど若者が声を大きく上げることはできないんじゃないかとも思ってしまう。社会がどんどん変わっていくこの時代に、若い人たちの敏感な感受性や未来への強い関心が、日本でも大事にされていってほしい。

 

 

その隣の部屋でグリーンエネルギーの特集などを見た後、スーパーで買った昼食を駅のベンチで食べる。

 

中央駅の大きな広告には、みすぼらしい格好の少年が写っている。"and this is Danmark”という意味のデンマーク語の大きな見出しの下には、デンマークに64500人もの、貧困状態の子供がいることが書かれている。デンマークには約65万人の子どもがいるらしいから、割合にして10%。福祉国家なだけあって日本よりも割合は低いけれど、こうやって負の側面を隠さずに多くの人に知ってもらうことで改善していこうとするのが、この国らしいと思う。

  

バス停に着くが、時間になってもバスが来ず、結局1時間ほど待たされる。乗れるのかどうかもわからず冷や冷やして何度も係員に聞いたが、無事乗れてほっとする。

 

昨日の長時間のフライトや、外国で時間を過ごすことに疲れたのか、バスの中で眠る。

 

3時間ほどで、目的地のVejenに到着する。停留所にマクドやガソリンスタンドがあることは事前に教えてもらっていた。

ここから40分ほど歩いたところに、2年前留学していたときに、よくデンマークのことを僕に教えてくれた人の家がある。

今日はその人の家で泊めてもらうことになっていた。

 

初めての町を歩く。その人の家を目的地に設定したgooglemapを頼りに、大通りをしばらく行く。ラウンドアバウトを2つくらい渡ってから右に曲がると、デンマークらしいレンガの家が並ぶ、落ち着いた住宅地に入った。

 

ricepaper rollを作ってもらうと聞いていたので、途中のスーパーで醤油を買っていく。僕はricepaper rollを手巻き寿司と勘違いしていた。

 

家についてベルを鳴らすと、車いすで玄関まで出てきてくれ、久しぶりに再会。2年前と雰囲気が変わっていなくて安心する。

 

荷物を置き、肩が悪くなって好きだった料理ができなくなった彼女の代わりに僕がricepaper rollを作ってから、ヘルパーに手伝ってもらったのか、事前に用意してくれていたオーブンで焼いたサーモンや他の料理と一緒にいただきながら、彼女の話を聞く。

 

悲しいことに、英語が2年前から全く上達していない僕は彼女の話をところどころ理解できなかったし、どんどん喋る彼女に途中で英語でコメントをはさむこともあまりできない。

その上すでに長時間の移動の疲れのために頭が疲弊していたけれど、グリーンランドの話やデンマークの障害のある人への最近の政府の施策、ヘルパーを使って日本に来ようと思っていることなど、興味深い話をたくさん聞かせてもらう。何よりも、冷蔵庫から食材をとったり皿を並べたりするのも簡単じゃない彼女がこうしてもてなしてくれるのは、本当にありがたいことだ。

 

久しぶりの再会だからできるだけゆっくり話をしたいと思って頑張って頭を働かせながら彼女の話す英語を聞いていたけれど、途中で限界がきた。明日の朝続きを話そうと伝え、シャワーを借りたあとソファーで休ませてもらう。

旅には休息が必要だ。明日はコペンハーゲンに戻ったらゆっくりしよう。

 

背もたれが外に開いてベッドにもなるソファは横になるとすごく気持ちよくて、すぐに寝てしまった。

 

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