書きながら考えたこと。

1992年生まれ。大学で臨床心理学などを学んだ後デンマークに留学し、帰ってからは奈良で働いています。働きすぎず、のんびりゆったり生きたい。

ボーナスの使い方

65歳以上で無年金か、毎月の年金支給額が16000円程度しかない人が、日本には40万人以上いるらしい。高齢者3500万人のうちの1~2%。
そのうち生活保護も受給せずに働いて暮らしている人がどれだけいるかはデータがなくてわからない。

1円も年金をもらったことがない知り合いが偶然、身近にいる。
今その人は73歳なんだけど毎日ひとりで、自宅としても使っている建物で民宿の仕事をしながら暮らしている。

その民宿は京都にあり、外国の人にも人気の宿で、彼女は高齢になってから少しずつ英語を覚え、電子辞書を片手に京都を訪れた世界中の人たちと英語でコミュニケーションをとる。

決して流暢ではないけど(僕も人のことを言えない)、文法も多少は意識して学び、日々の仕事でたくさん話しているから、高校や大学を出た多くの日本人より英語で外国人とコミュニケーションをとるのが上手だと思う。彼女は高校も中学校も出ていない。50~60年前では珍しいことではないのだろうけど。

久しぶりに訪ねたとき、足腰の衰えを僕に話した彼女は、仕事をやめれば生活保護を受けることもできるんだろうけど、彼女はそれを選ばない(プライドや、働けるうちは働くという意思がある)。

もし生活保護を受けるとしたら、おそらく彼女の体が今以上に衰えて本当に働けなくなったときで、そのときに彼女はきっと、自分の夢を叶えることができなくなっている。

73歳の彼女には夢がある。
民宿に訪れてきて仲良くなったお客さんのいるヨーロッパを旅行するという夢。
60歳を過ぎてから一度旅したことのあるローマに、もう一度行きたいと思っている。

国籍や年齢層を問わず、多くの人に母親のように慕われる彼女の宿には、ヨーロッパからのリピーターも多い。「今度私の家に遊びにきてよ」と、住所を書いて渡されることもある。「今度行くよ」と笑顔で返す彼女が、実際にお客さんの家を訪れたことは残念ながら、一度もない。

休暇の多いイタリアの旅行客は、10日間の日本旅行をshort trip と言うらしい。彼女はそれを羨ましく思っている。

自営業だから休もうと思えば休めるはずだけど、海外を10日もかけて旅する資金的な余裕は彼女にはないし、10日間働かないとその間の収入もなくなり、生活していけなくなる。彼女の収入は、宿泊してくれた人が渡してくれる宿代が全てで、毎日働いていても余裕のある生活ができるほどではないのが現実。


まだ25歳の自分は生きてさえいれば海外に行くチャンスはたくさんあるんだろうけど、もうすぐ74歳になる彼女が海外に行けるのは何年後までだろうかと思いながら、来月自分の口座に振り込まれるはずの、決して多いとは言えないボーナスの使い道を考えている。